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業務用パン

パン造りへの想い

対談
レトロバゲットができるまで

「レトロバゲット"1924"」誕生秘話と定番となるまでについて当時のフランスパン係係長だった森野繁さんと、営業部長石原さんにうかがいました。

何が開発のきっかけとなったのでしょうか。

森野
海外視察で訪れた、パリ13区の2003年パリバゲットコンクール・グランプリを受賞した有名店の「バゲット・レトロ」でした。試食してみたところ、とても感じが良かったんです。「進々堂でもこのレベルのバゲットを作ろう!」という社長の強い思いから、製造スタッフは店に通って味や食感を覚え、冷凍して日本にも持ち帰りました。そして2004年、レシピも何もないところから新しいバゲット造りが始まりました。

フランス産小麦でなければ

帰国後その味を実現するためにどのように試作に挑んだのでしょうか。

森野
フランス産小麦を使うことだけが大前提で、製法も使用する種も全て0からスタートしたので、「さあ、どうしよう?」となりました。フランス産小麦はミネラル分がとても多いため、扱いにくい粉です。日本でよく使われる北米産小麦とはたんぱく質の質・量が違い、中でもグルテンの量が決定的に違います。グルテンが多い北米産小麦は、練るほどにボリュームのあるやわらかいパンができます。逆にフランス産小麦は練るほど、グルテンが破壊されてふくらまず、生地が駄目になってしまうのです。またコストも大幅に違い、北米産と比べて約3倍の価格です。

レトロバゲット開発のためにフランス産小麦を初めて取り入れたのですね。

森野
とりあえずこれまでのバゲット造りで培った方法を試してみたり、サワー種を使ってみたり、いろんな人に聞いていろいろ試してみたけれど、思うようなバゲットには近づきませんでした。

森野
パリでは労働条件が厳しいこともあって、従業員は定時できっちり帰ります。ですが、それだとパンが作れません。そこで生地を前日に練って一晩冷蔵庫で寝かし、翌日に出して分割して成型して焼くという製法が編み出されたんです。当時、パリではその「冷蔵長時間醗酵」製法が主流になっているということを聞きつけました。

森野
小麦は水を吸わせることが最も重要な工程です。この製法は一晩寝かせることによって、小麦の長所を一番引き出せるところが最大のメリットです。長時間寝かすことで、醗酵イースト量も通常の半分以下と、最小限の量で済むんですね。当時、関西ではまだこういう製法を手がけているところはなく、社長の意向で「関西で真っ先にやろう!」となりました。時間をかけてじっくり醗酵させるのがレトロバゲットの一番の特徴。だから香りも立ちますし、見栄えもしっかり色合いもでます。

フランス産小麦を使用して冷蔵長時間醗酵を行うと、よいことだらけのようですが、他のところでそれをやっているところはあまりありません。なぜなのでしょう。

石原
個人店舗などの小さな規模では量が生産できませんし、大手は大量の生地を寝かせておく場所がない。うちはちょうどいい大きさなわけです。生地を寝かす必要があるので、注文に対応すべくストックをきちんと持つ計画生産が大事ですね。

森野
毎朝社長が工場巡回する時に必ず、試作を出すんです。今日はここを変えました、と。ですが、なかなかいい返事はもらえませんでした。どうしようかと本当に悩みましたが、うん、と言ってもらえるまで諦められませんからね。

石原
執念のようなものですね。開発には異例の1年という長さがかかりました。しかし、本場のバゲットを再現するためにはこだわりを持って納得できるところまでやろうという思いがありました。そうしてようやく目指すものが出来上がったんです。

森野
実は完成したとき、失敗だと思ったんです。やっぱり開発スタッフの頭の中に通常のバゲットのイメージが絶えずあって、無意識にそれを基準にしてしまっていたのです。完成したときに、食べれば確かに美味しいけれど、普段より皮も厚いし...と現場はそう思ったんです。これじゃ納得してもらえないかもと思いながらも出したら、試食した社長が「よし、これや!」と。

石原
パンのサービスをすると、日本人はバゲットの端を避けたがりますが、外国の方は逆に端を入れてくれといいますね。「そこが美味しいんだ」と。これがパンを食べ慣れている欧米の感覚なんだと思いましたね。

完成したバゲットには「レトロバゲット"1924"」というちょっと変わった名前がついていますね。一体この数字は何を表しているのでしょうか。

石原
とても重要な年を意味しています。1924(大正13)年というのは、進々堂の創業者続木斉(つづきひとし)が、日本人のパン屋として初めてフランス留学をした年。本物のパンを勉強しようと旅立った斉は40日間の船旅の末、辿り着いたパリで世界一美味しいと言われるフランスパンに出会います。ここで彼は本場のフランスパンに魅せられ、これを日本に普及することが自分の使命と考えたのです。その記念すべき年にちなんで命名されたのが「レトロバゲット"1924"」。まさに進々堂のルーツとも言える商品なのです。

こうして2006年に世に出た「レトロバゲット"1924"」ですが、本場のパンはなかなか受け入れてもらいづらく、爆発的に売れるという風にはなりません。ですが、本当にパンが好きな人や海外のパンに親しんでいる人から根強い支持を受け、段々と知られるようになっていき、今では「バゲットはこれしか食べないんです」「うちで出すにはこのパンでなくては困る」という声をいただけるようになりました。喜ばれる美味しいパンができたという実感があります。

石原
素材の味を活かしたパンが基本だと思います。その美味しさを伝えたいです。調理のプロであるシェフのお客様は本場のバゲットの美味しさを知っていらっしゃいますが、その先にいるホテルやレストランの宿泊客や来店客のお客様は甘くて柔らかいパンを食べ慣れている方が多いわけです。
ですので、そう簡単には爆発的ヒットというわけにはいきませんが、昔に比べればパン好きな方が増え、売り続けるうちに「これしかうちは取らない」とホテルから指名していただけるようにもなってきました。

森野
バゲットも昔からだいぶ改良しました。前はホテルの意向に沿うようなパンを作っていたんです。ですが、進々堂が自信を持って美味しいと思うバゲットを造って、それを提供しようという流れになりました。

石原
レトロバゲット"1924"は開発当時のままのレシピです。絶対量的には少ないですが、本当のパンの味を知る方にレトロバゲット"1924"をお届けしたいです。もっと知ってもらおうと価格据え置きのまま250gから350gにボリュームアップしました。

よきパンの思いが証明される

コンクールへの出品のために開発したのではなく、普段店頭で販売しているレトロバゲットが世界一級レベルの評価を受け、進々堂の目指す美味しさが証明されたことは、大きな自信となりました。

森野
2006年、製粉会社が主催したバゲットコンクールが初めて開かれました。条件はフランス産小麦を使用したパンであること。全国の名だたるパン屋から330本のバゲットの応募があり、書類選考を経てから30店に絞られました。進々堂も朝10本のレトロバゲット"1924"を焼いて、その中から3本を持って東京会場に向かいました。味、色、形、内相、香り、クープの入り方、食感など、あらゆる面からフランス人MOF料理研究家、パン職人、製粉会社社員など様々な分野のプロが試食して、審査・採点が行われました。

森野
正直、全国の有名店などから展示されたパンを見て、これは難しいなというのが第一印象でした。しかし社長は最初から「これだったら間違いない」と言っていました。入賞するとしたら審査員賞だろうかと期待していましたが、結果はなんと準グランプリ受賞。急いで社長に報告の電話をしたところ「僕は取ると思っていたよ」と。

段々とその名が知られて、支持されるようになっていったレトロバゲット"1924"ですが、その味が名実ともに証明されたそうですね。

内相の目は美味しさの証

石原
昔はバゲットの主流は内相が詰まったものが歓迎され、穴が空いているとクレーム扱いだったんです。

森野
そこで、わざと高タンパク粉を使ったり、ミキシングをいっぱいかけて堅めに練り上げて、食パンのように内相が詰まったバゲットを造っていました。お客様には喜ばれましたが、社長は「本当のバゲットは違う」ととても嫌がり、いつも現場は怒られていました。
内相の目がしっかり開かないと粉っぽさが抜けずに残り、味に一番影響します。穴は醗酵した後のガスが発生して、少ないグルテンがしっかり伸びて艶のある膜ができた跡なんです。きちんと醗酵した状態という美味しさの証です。

森野
美味しいパンは小麦の香りが残らないといけません。一番重要なのは窯です。どれだけいい生地を造っても、最後の焼きで失敗するといいパンにはなりません。基本は高温短時間で焼き上げます。温度が低いとクラストが堅く分厚くなって、食感が悪くなります。焼き上がるとクラストからパチパチ音がしますが、これは「天使のささやき」と呼ばれ、窯担当ならば始終耳にしている馴染み深い音です。
クープの入れ方や角度によって開き方も変わり、ガスの抜けも変わります。レトロバゲット"1924"はフランス産小麦なのでクープが開きにくい生地で、40分くらい醗酵させた後に入れます。クープを入れることも難しいんですよ。基本は5本で長さをまず極力均等に入れること。

そうして、食べればすぐに、いつものパンとは全く違うことがわかるバゲットとなったのですね。

石原
第一印象は、「固いパンだな!」となりますが、噛めば噛むほど小麦本来の味と甘みがじんわりと出てきます。しっかりと焼き上げたクラストは香ばしくパリっと、中はしっとりと柔らかくほんのりとした塩気があり、シンプルだけど飽きのこない深い味わいで、どんな料理とも相性がよいです。

質・量ともに安定供給ができることと、安心できる対応が信頼を生む

石原
味の良さはすぐ理解していただけますが、どうしても価格が張ってしまいます。ですので、こだわりのビストロ、ブライダルやクリスマスディナーなど、ちょっとスペシャルな日の味わって食べるシーンに使っていただいています。

森野
見た目だけなら日本のパンの方が綺麗ですが、大雑把なフランスのパンの方が味は断然良い。また、製造日によって品質にばらつきがあることも当たり前とされています。日本では常に同じ品質を求める傾向が強いです。

石原
これだけの質と量のバゲットを安定的に供給できるメーカーはなかなかないと思います。京都市内のみならず全国的に知っていただけるよう努力しています。現在ですと、海外から冷凍バゲットを仕入れるという企業も出てきています。ですが、何かが起きたときの場合を考慮し、海外輸入を敬遠されるお客様もいらっしゃいます。現地のメーカーとのやりとりや、間に輸入元や商社を挟むと、トラブルがあったときの対応が遅いという問題があり、実際それで取引を辞めたというお話も耳にします。もしバゲットに不備があったときには、ホテルの責任になってしまいます。お客様の信用を傷つけるわけにはいきません。万が一のトラブル時の迅速なフォローはもちろん、各種検査機で異物混入も見張り、おいしさだけでなく、安心と安全を一緒にお届けします。

石原
近年、フランスから質の良い冷凍焼成パンも輸入されてきており、全世界を相手に勝負する時代になりました。フランスからの冷凍焼成パンは競争相手ですが、本場の味が広まっていくことは嬉しいことでもあるんです。

高齢化や核家族化、一人暮らしの方が増え、なかなか一本が食べきれないという声が増えてきました。そういう方にも食べていただきやすいように「レトロバゲット"1924"ドゥミ」という、お求めやすい価格と食べきりハーフサイズでの販売も始まりました。小規模の店舗にも役立てていただけるのではないでしょうか。

石原
今後、形や大きさは変わることがあるかもしれませんが、この味は変わることはないでしょう。これからも、食べ飽きない美味しさはそのままにずっと「レトロバゲット"1924"」の製造・販売を続けていきます。

レトロバゲット"1924""は創業者のパンへの熱い思いとそれを受け継ぐ進々堂の美味しさへのこだわりが詰まった自信作ですね。

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